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June 2009

ベルリンの味 

そこそこ暖かくなりつつも、夏になりきれないベルリンの天候。
プランターにパセリや豆の種を先月蒔いたのだが、芽は出たのだけれど今ひとつ太陽が欲しい感じ。野菜はいろいろ美味しいものを見つけられるのだが、どんな農薬使っているか判らないし、自給できるものがあったらと。心配は留守中の水遣り。
さて土曜日は昔のベルリン中央駅近くにある工場跡を改築した演奏会場で放送響のファミリーコンサートとキンダーコンサートのゲネプロを聴く。前者は人気役者がナビゲート、後者はチューバとファゴット奏者のお笑いコンビが進行役と、夏を題材に楽しい企画コンサート。
夜はコンツェルトハウスで同オーケストラとRIAS合唱団によるハイドンの天地創造。3年程前勤めていた母校の合唱とNHK交響楽団が共演をし好評だったのを思い起す。総勢35名という少数の合唱のアンサンブルは男声と女声ほぼ同数にしてバランスが良い。ハイドンの古典ならではのフォルムの中で表現豊かで自由な「うた」が聴いて取れる作品。既存のシンフォニーオーケストラが古典的な奏法のアプローチをするのはなかなか難しい。
そして日曜はシュターツオパーへ出向き、モーツァルトの「魔笛」を見る。A.Everdingの演出。タミーノはトレンチコートを着て太古に迷い込んだような設定。他の演者はそれなりに時代を感じさせる背景や空間の中で演ずる。でかい動物のぬいぐるみや小道具は失笑を誘う。何といってもルネ・パーペのザラストロは存在感。ダン・エッティンガーの指揮。

ドイツで外食をすると味の濃さに辟易することがある。大抵塩気が多い。正直なところドイツ人の味覚は信用ならねぇ。そんな訳で様々な珍料理がこの手によって生まれる。昨日は海老のチリソース煮。手作りパンもマスター。これまでクリームシチューは勿論ルーから作る。日本食もいろいろとトライ。久々に手に入った油揚げに感動も。
美味しい魚の食べられる日も近い。

コンサートのごあんない

この夏おすすめのコンサートを2つご案内します

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☆DUO PRISM RECITAL~瑞々しい感性の響き 煌きのハーモニー~
2009年7月24日(金)19:00開演 東京文化会館小ホール 全席自由4000円
ヴァイオリン 矢袋(やむろ)美沙
ピアノ     小池紘子
曲目:
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第8番 ト長調、第5番「春」ヘ長調
モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調kv.296
メシアン:主題と変奏
フォーレ:ヴァイオリンソナタ 第1番イ長調

マネジメント問い合わせ:新演奏家協会 03-3561-5012 www.shin-en.jp

♪ベルリンで大変お世話になっているヴァイオリニスト矢袋美沙さんのデュオリサイタル。
彼女は現在ベルリン放送交響楽団の第1ヴァイオリン奏者として精力的な演奏活動をしている実力派です。今回の選曲を見てもお分かりの通り、ドイツでの演奏活動を続ける傍ら、ご自身の音楽を大切に求めていらっしゃる。とても素敵な女性でその人柄の溢れるよい時間が創られること間違いありません。お薦めいたします!

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☆東京交響楽団&サントリーホール こども定期演奏会
2009年7月25日(土)11:00開演

加藤  旭 作曲 「こども定期演奏会2009」テーマ曲 
バーンスタイン:ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』序曲
ガーシュウィンの作品から、他

♪この回で30回を迎える(年4回のシリーズ公演)東京交響楽団さんと大友直人氏の指揮とおはなしによる人気の演奏会ですが、今回ご紹介したいのは演奏会の冒頭で演奏されるオープニングの曲を作曲した加藤旭さんです。彼は現在小学4年生、数年前に知り合いそれ以来、小生の演奏会に来ていただいたり、才能溢れる作品を見せてもらったり、歳の離れた小生の大切な友人です。将来の楽しみな彼の成長を見守りたいと思っています。

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ベルリンの生活 Ⅱ

週が明けてベルリンは穏やかな天気。こんな日にヴァルトビューネやってくれたら良かったのに、とぼやいてみる。
ベルリンに来ていくつか楽譜を手に入れるために店を訪ねる。ひとつはCantus、小さいがスコアもそこそこ手に入る。もうひとつはRiedel、ここは比較的大きいお店。どちらも取り寄せもする。ドイツの出版社のものはやはり早く手に入る。
昨日はピアニストの沢野智子さんにお付き合い願って、電子ピアノを購入しに出かけた。ヤマハもカワイも当然シェアとしてはドイツのものよりも多くは場を利かせているが、敢えてローランド社のものをゲット。何だか最近ピアノが弾きたくてたまらない、といっても弾けなくなっちゃったくせに。来週届くのが待ち遠しい。
今日は久々に放送響のリハを覘く。ファミリーコンサートのプローべはブレーメンのシェフM.Poschnerという指揮者をみた。
こちらに来て運転をすることはきっと無いだろうと思っていたが、住民登録をして半年以内であれば日本の免許証からドイツのものに面倒な試験なしに書き換えることが出来ると聞き、実は5月の頭に申請をしたのだ。およそひと月で写真入りの免許証が届くといわれていたのだが十分経ったのに来ない。手違いはとも考え問い合わせると、今年1月の申請分が先ごろ送ったとの話。が~ん、年内に届いたら良い方だろうか。これがドイツ。
何でも手続きは面倒な上に時間ばかりかかる。電車の切符を1枚買うのにも自販機でお金を入れてからゆっくり切符の印刷が始まる。ここではのんびり構えまひょ。
嬉しいのはビールが安くて旨いことかなぁ。日本のあられ、せんべいや枝豆が恋しい。


ベルリンの森 ヴァルトビューネ

行って来ました!ヴァルトビューネ。
「森の舞台」と称するベルリンフィルの野外音楽会。そのコンサートは毎年ベルリンの市民のみならず各国から多くの人が聞きに訪れる。その数2万人。
サイトで我がフラットから一番乗り継ぎの良い行き方を検索。何ていうことは無いおよそ30分の道程。電車には家族連れなど大きなバスケットにお弁当や敷物を入れて思い思いの臨戦態勢。近くにはオリンピックスタジアムがあるが、フットボールの試合を観戦するような殺気立った雰囲気は全く無く、あふれ返る駅の人だかりや簡単な荷物検査を待つのも極めて穏やか。
さて場内はすり鉢状の巨大な器。小生は舞台に程近い中央の椅子席を陣取る。その前、舞台の手前は花火大会さながらシートを敷きビールにワイン、ソーセージにチーズと既に大宴会。開演は8時15分、陽は傾いてきたがまだまだ明るく暖かい。
開演が待ちきれないお客から早くやれぃと言わんばかりの拍手に応えて、コンマスのブラウンシュタイン氏、オケの中からウェーブを仕掛ける。その波が2万人の観客に伝播する様子は正しく音楽の輪を作り上げる。
いよいよ開演、次期コンサートマスターに内定した樫本さんもトップサイドに。サー・サイモン・ラトル氏の指揮でチャイコフスキーのくるみ割り人形から抜粋。マイクを通した音響は残念ながらいただけないものだが、アンサンブル能力の高さ、各々の音楽は寧ろクローズアップされ違った楽しみ方も出来る。とは言え今宵はこの空間や雰囲気を楽しむためのものだろう。皆黙って聞いている。喋ろうものなら「シッ!」2万人が音楽とともにシーンと静まり返るその空気もまた凄い。
2曲目のラフマニノフのPf協はブロンフマン氏のソロ、引き付けられる。陽も傾き森にこだまする小鳥の囀りも赤ちゃんの泣き声もむしろ微笑ましい。3楽章は圧巻。どんどん気温が下がり悪条件の中で見事な演奏。
これはもう降るな、というタイミングを皆知っていて準備しておいた傘やら合羽を羽織る。休憩とともに待ってましたとばかりの雨。
止む気配は無く、30分の休憩の後、後半のプログラム「春の祭典」。マイクで拾っているためにその細部が浮き彫りになる。2部の後半はまた圧巻。大歓声とスタンディングオベイション。ラトル氏のこの雨に「ワーオ!」スピーチの後アンコール、チャイコフスキーのシーンとお馴染み「ベルリンの風」に皆、のりのり。
これでベルリンフィルも夏季オフに入る、お疲れ様!子供の時から親に抱かれて聴き、歴史や社会とともにある皆に愛されるオーケストラの姿を見た。

日本の様子を多くの方々から送っていただいている。皆さんありがとうございます。
じめじめ、いやだなぁ。

ベルリンの日照 Ⅱ

ここベルリンは今が一番日の長い時を迎えている。一日が長いということは活動時間も長い感覚があるが生活のリズムは保たれている。
おそらく昨日19日辺りが一年で一番日が長い。朝4時42分の日の出、日の入りは21時33分とおよそ17時間太陽の恵みを受けていたことになろうか。
逆に冬はその分日が短いわけで、ロンドンで経験したクリスマスの頃は9時ごろ漸く明るくなり、3時過ぎには薄暗くなってしまう。それだけヨーロッパの夏は貴重で皆がその時間を謳歌している。
日本は梅雨。昨年の丁度今頃、サントリーホールで第九の指揮をしたあのときの想いが甦る。多くの人に支えられて指揮台に立てる感謝とともに、それまでの数年いろいろなお話を頂き走り続けていたが、余りに自身の時間の無さにこのままではいけないと思い立ったものだった。あの時のぎっくり腰は戒めのようなものかと。敢えてこの時期に何の記録にも残らないような時間をロンドンやベルリンで費やしたことがどんな意味を持つかは判らないのだが、少なくとも自身の世界観が改められ、知らなかったものを見聞きしただけでも得たものは大きい。いつだってその時々で自分が最良と思える選択を取ってきた結果、今の自分がある。たとえ直ぐに目に見える何かに現れずとも、また暫く元気に指揮活動をしていくことが出来ると思っている。ひとつひとつ積み重ねていこう。
ヴァイオリンの樫本大進氏がベルリンフィル次期コンサートマスターに内定したニュース。長年同ポストを務めておられた安永徹さんが3月で惜しまれつつお辞めになったが、重責だけに新しい時代を担うベルリンフィルの顔としての活躍を楽しみにしたい。
さて、今日は楽しみにしていたベルリンフィルのヴァルトビューネ野外演奏会の日だ。天気予報の雨マークがちと気になるが、気にせず行ってみよう。
どうぞ良い一週間を。

2009年7月~8月コンサートスケジュール

東京都交響楽団 音楽鑑賞教室(非公開)

2009年7月14日・16日
三鷹市公会堂
なかのZEROホ-ル


第30回霧島国際音楽祭 オープニング・スペシャル・ガラコンサート

2009年7月26日(日) 15:30開演
みやまコンセール
出演者:藤原浜雄、ダニエル・ゲーデ、景山誠治、松原勝也(以上Vn.)、店村眞積(Vla.)、練木繁夫、ダン・タイ・ソン、若林 顕(以上Pf.)、田中雅弘(Vc.)
鹿児島交響楽団(管弦楽)、コールみやま(合唱)
 
ヘンデル:「メサイヤ」よりハレルヤコーラス
ヴィヴァルディ:4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲、協奏曲集「四季」より”夏”
J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲
モーツァルト:ピアノソナタ第11番より第1楽章、2台のピアノのための協奏曲より第1楽章
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲より第1楽章

入場料[全席指定]※未就学児の入場は不可 [S]4,000 [A]一般3,500[高校生以下(SA席共通)]2,000円[ビュッフェパーティー券]11,500

お問い合わせ:みやまコンセールTEL: 0995-78-8000

名古屋フィルハーモニー交響楽団 第20回愛知県職員互助会ファミリーコンサート    

2009年8月1日(土)15:30開演 愛知県芸術劇場コンサートホール           共演:神谷美千子(Vn.)*

<夏の音楽~ヘンデル没後250年・メンデルスゾーン生誕200年記念~>
ヘンデル[ハーティ編]:『王宮の花火の音楽』組曲(4曲)
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64*
ヘンデル[ハーティ編]:『水上の音楽』組曲(6曲)
メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』序曲 作品21
メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』作品61より「スケルツォ」、「結婚行進曲」

(関係者のみ)

ベルリンの新作オペラ

今週は、大人しくしていようと心に決めていたのだが昨日もまた一つ、新作オペラのプレミエ、ゲネラルプローベに足を運ぶ。
ベルリン・コーミッシェ・オーパーといえば、日本にも度々来日している演出家Andreas Homokiが芸術総監督を務める。シェークスピアの悲劇「ハムレット」を題材とした「12の音楽劇からなる絵」それを所謂座付作曲家Christian Jostによる新作が初演されるのだが、プレミエの前日、おそらく日本人で立ち会ったのは小生だけだろう。というか、単に東洋人を見かけなかっただけだが。
白と黒のみの舞台、下手に螺旋階段、全面を覆う大きな真っ白い円盤がステージと化し上下する。円盤の下は闇の世界、黒塗りされた亡霊たちの合唱。キャストは全て白尽くめの衣装。場ごとに黒幕が一度下り「絵」の転換を図る。
音楽総監督のCarl.St.Clairはとても良い仕事をしていた。というのも、音楽に至っては残念ながら印象に残るところが無かった。超絶技巧の歌唱はどのキャストも見事に練習を積み、持ち声を披露。オーケストラは左右2手に分かれたアンサンブル、エレキベースも入る。難解な音素材を上手に捌いて行く。
演出は無駄に写るような動きを廃し、復讐を誓うハムレットを中心に、登場人物の心理描写を明解に描く。半分の「絵」を終えたところで休憩。全編通して2時間45分。今日これからプレミエだ。本番は行かないが後日どんな反応が出るのか楽しみではある。

一つの作品を世に送り出して、それが上向きの評価を得るのは大変なことだ。だから作曲家は偉大だと常々思う。言い換えれば偉大なる作品があってこそ、我々の演奏の場があるわけで、もう一つ言い合えれば、楽譜を音に再創造する我々の役割にはとても責任がある。生きている間に星の数ほどある作品の中から出遭える作品の数、これっぽっちも音に出来なんだろうか、と音楽との出会いを思う。
今回見て聴いた作品は、シェークスピアの原典から、今生きている芸術家たちの手で生み出されたもの、数年、100年後に誰がどんな想いで取り上げるだろうか。

皆様良い週末を!

ベルリンの子供 Ⅱ

デュッセルドルフの日本人学校で、大勢の新型インフルエンザ感染者が確認された報せから暫く経って先週末、いよいよベルリンにも一人、そして週明けにひとり、ふたりと増え始めた。水際対策などは日本ほど細やかな対応をしていないような気もする。
日本では街中でマスク姿は珍しくも無いが、ここベルリンではマスクをしている人を撮り、それがTVのニュースになっちゃう程の話だ。
コンサートも、ホールや劇場ともに大勢の人達が一同に会する密室なだけに神経質にもなるが、日本から持って来ていたマスクを携帯して自らを守ることにしよう。
いよいよシーズンも終わりかけ、いろいろやってはいるが今週は演奏会もお預けにしよう。

朝7時過ぎに鐘の音の後、再び眠り続けると子供の声で目が覚める。「マ~ム!チュ~ス!」恐らく「おかぁちゃ~ん、ばいば~い!」と言っているようだが、たまたま窓からその現場を捉えると、中庭をお父さんと一緒に出かける5~6歳の男の子、よく響くそこから上階のお母さんに挨拶だ。なかなか微笑ましく良い声なのだが、お父さんが出遅れるとその分お母さんを呼ぶ声が延々と続き睡眠はそこで終了、一日のスタートだ。

昨日は店頭で一際目を引く、さくらんぼを買ってきた。スーパーは計り売りをしてくれるので良そうなのを選んで求める。東北の繊細なものとは少し違うが、ブラックチェリーとでも言おうか、濃い赤紫の中身もとても甘く濃い味だ。20粒で100円程。メロンもどこ産だかわからないが150円程でかなり美味しいものが選べる。

アイスクリームは至るところにお店があり、子供たちの人気の場所だが、むしろ手を引く親たちの方が真剣に選び活き活きして見える。日本では食べる場所を考えてしまうのだが、男性も普通に食べ歩く。というわけでたまにお世話になる。これがまたうまい。

何年か前に新潟の温泉宿の近くにきのこばかりを食べさせる店があった。食材は全てきのこ、フルコースを美味しく頂いたのだが、それを思い出させるPfifferlingアンズタケという黄金色のきのこを発見。これから出回るらしい。よく調べて、美味しいものを作ってみようか。

ベルリンのオーケストラ Ⅱ

最低気温が再び一ケタの嵐のような今週後半のベルリンは、今日土曜日ようやく穏やかな快晴となった。

昨日は、前々から求めておいたベルリンフィルの定期2日目ダニエル・バレンボイム指揮リヒャルト・シュトラウスの交響詩2曲の間に米作曲界重鎮Elliot Carterのフルートコンチェルト(E.Pahud)とピアノとオーケストラのための作品(Nicolas Hodges)を挟むというプロ。
バレンボイム氏はかなりの先振りをすることがあって正直時折ヒヤッとする場面も。ドン・ファンは何度か振っているが、オケも相当難しい。最後の弱音とともに、どこの国にもフライング拍手があるようで、周りから一斉に睨まれていた。
間2曲のコンチェルト、バレンボイム氏と親交のある100歳を迎えたカーターの作品。何れも比較的最近の作品のようだが「怪物」と言われる所以が垣間見られる。パユのフルートも流石ではあるが、ピアノのホッジェスは物凄い才能だ。作曲家はこのような演奏家の大きな理解とその能力をもってして彼らの音楽をアピール出来る、その非常に恵まれた具現の一つだろう。
後半はティル・オイゲンシュピーゲルの悪戯。これも実際はヒヤッとする場面があったのだがそれを覆い隠すだけの内容があった。弦の音色、管打セクションの見事なアンサンブルはやはりベルリンフィルと言ったところだろう。
隣の歌劇場でシェフを務めるバレンボイム氏が当然のようにベルリンフィルに現れ、日本では余り近所のシェフがお隣を振りに伺う場面は滅多に見ないだけに面白い。今回の定期でベルリンフィルのシーズンはヴァルトヴューネを残すのみだ。
ドイツ国内のオケに相当数あるオーケストラアカデミー、所謂研究員のような若い世代を育てるシステムはとにかく素晴らしい。今回放送響にはヴァイオリンだけで70名以上、ここベルリンフィルのチューバパートだけでも20名の応募があったと言う。音楽大学も当然と言って良いほど、卒業後のオーケストラへの就職を見据えた指導やカリキュラムがなされる。日本の事情状況とはかけ離れて見える部分だ。相当レベルの高い若い奏者が、このシーズンの終りに次のチャンスを狙って戦いに挑んでいる。
刺激的な町だ。

ベルリンのオーケストラ

東京も梅雨に入ったという報せに呼応しているわけではないはずだが、ベルリンはここのところ良く雨が降る。土砂降りのことも。それでもジメジメ感が無いのは天井が高いからなのか不思議。

昨日はフィルハーモニーへまず放送響のゲネプロを聴く。パイプオルガンや本来バンダの金管アンサンブルとのバランスをとり、手際の良いリハが進む。
会場に何処かで見かけた顔、ここで指揮の沼尻竜典さんとお会いする。以前から副指揮でお世話になったり折に触れて小生にアドヴァイスを下さる、同世代の実力者だ。ここでもいろいろと有益な話を伺う。
かつて指揮をした千葉市少年少女オーケストラのメンバーだった男性ともお会いする。世の中狭いものだ。
団員さんたちがくつろぐキャンティーンでお茶をしていたら、でかい声で小柄ながら恰幅の良い男性が数人とともに現る。ダニエル・バレンボイム。なかなか豪快な人だ。
それが、午後3時過ぎのこと、午前中はベルリンフィルのゲネプロ、そして放送響のゲネの後、再び4時過ぎからベルリンフィルとバレンボイム指揮、フルート、エマニュエル・パユとのゲネ。そして、夜8時からヤノフスキ=ベルリン放送響の本番。一日に4つの時間枠にフルでホールが稼動している。
バリー・ダグラスによるレーガーのピアノコンチェルト、完成度の低い作品ながら完成度の高い演奏。R.シュトラウスも過度なエスプレッシーヴォを廃したオケの実力の高さを物語る秀演。終演後のマエストロもご機嫌だった。第一バイオリン奏者の矢袋美沙さんや、契約団員として、ドイツ国内で活躍するフルートの佐々静香さんたちと会食。活躍する日本人が頼もしい。

ドイツにいて日本の仲間達から演奏会の案内や情報が届く。少しずつここでも紹介をしていきたい。

日本の皆さんから季節の便りや近況を伺えるのが嬉しい。

ベルリンの子供

今朝も地下鉄で小学生の集団と一緒になった。社会科見学か何かクラスの授業だろう。騒いじゃう子もいれば静かにしている子も、日本と変わりない。
放送響のリハーサルに小学生の1クラスが訪れた。珍しく客席ではなく、合唱席にあたる指揮者の真正面のブースだ。R・シュトラウスのアルプス交響曲を冒頭から一コマ分およそ80分の間、良く聴いていた。流石に最後はへとへとになっていた子供もいたが、素晴らしいオーケストラのリハーサルを日常の体験として鑑賞できるのは、物凄く意味があることだと思う。
難解な作品だけれども、でかい鉄板をたたけば、きっとこれが雷を現しているのは自然と捉えられるだろうし、10代のシュトラウスのアルプス体験が基になった楽想は知識が無くてもこのサウンドとともに心の何処かに刻まれるに違いない。
バリー・ダグラス氏のピアノでマックス・レーガーの協奏曲のリハーサルを聴く。調性の推移が複雑な、そうめったに取り上げることもないであろう同曲に光を当てる。ピアノのハーモニー感の見事なこと、音色の多様なピアニストの感性に釘付けになる。
明日のRSB今期最後の定期、本番はきっと良いものになるだろう。

さて先日の日曜日は、国立オペラのモーツァルト「後宮からの誘拐」プレミエを観る。
全3幕2時間10分休憩なし、舞台は上下2層の白と黒の空間、演者に客席で語りや歌を歌わせる、安い席取っちゃうと誰が何やってんだかさっぱり判らなくなるような演出。
がしかし、その音楽の精緻なアンサンブルと無理の無い運びでドラマを見事に推進するクオリティの高さに脱帽。
Philippe Jordanの指揮、オーケストラそして歌手陣も全て素晴らしかったが特にChristine Schaferのコンスタンツェは特筆に値しよう。演出に対する激しいブーイングとブラボーの応戦はプレミエならではのシーンだろうか。 よい形でスクラムが組めた公演だと拝察する。

ますます日の長くなるベルリン。どこまで行くんや。

辻井君

昨日の国際放送での目玉は何と言っても辻井君のバン・クライバーン国際コンクールでの最高位受賞のニュースだろう。
4年程前になるだろうか、彼の学んでいた東京音楽大学の付属高校に勤めていた頃、ショパンコンクールを受ける前だったのだと思うが、オーケストラとのコンチェルトの経験の少ない当時の彼にアドヴァイスをして欲しいという話から、1度レッスンをさせてもらうことがあった。
もうその時から既に演奏家として必要なものは備わっていたのだが、見えていないことを感じさせることの無いほど、見事なまでに呼吸や、間を感じ取り互いに対話する能力が備わっていたのを思い出す。
今回の見事な快挙に心からおめでとうを言いたい。ますます国際的な活躍が期待されよう。

ベルリンの地下鉄

肌寒い一日。土曜の交通機関はほぼ休日ダイアで運行するところが多い。いつもの駅に向かうと、マッチョなお兄さん二人が壁の落書きをペンキで消している。その手際の良さと、確実な仕事振りに思わず見入る。でもまた数日すると同じような落書きが出現して、またこの人達の手で消されるのかと思うと何だか微妙な気持ちになる。
地下鉄内はどこも携帯が通じる。話しをしていても然程気にはならない。むしろ神経質なほどに扱う日本の方が不自然さを感じる。たまにヘッドフォーンの音量のでかい輩もいるが一期一会だ。
運転手がワンマン運転で扉の開閉を行うのもそのシステムは極めてうまくいっている。日本のような異常なラッシュにはまだお目にかかっていないが、駅の乗降もスムーズで余計な音楽など無い。幹線では車内の放送やブザーはあっても必要最小限だ。ホームの電光掲示板に後何分で次の電車が来るか表示されている。これも良いシステムだ。「白線の内側に下がって…」なんて放送は無く、黙々と電車は走る。「今日もJRをご利用いただき誠に…」なんてサービスにもなっていないものは必要ない、と思う。今思うと、ロンドンは酷かったなぁ。各駅に順調に運行されているか、専用のボードがある程だった。
日本は時間にも正確な方だが駅はどこよりも綺麗だな。

今日は放送響のシュトラウス、合奏初日。前日の分奏が生きるリハーサル。ここぞという所以外は結構クールな流れを作る。大編成のオケを見事に動かすヤノフスキ氏の手腕は見事だ。ベルリンで学ぶ指揮者の角田さんとヴァイオリニストの平光さんとお会いする。
楽譜屋さんに注文を出す。どれだけ早く手に入るものか楽しみだ。
どうぞよい1週間を。

ベルリンバレエ

この2・3日寒い日が続いている。日中もせいぜい15℃止まりだ。ここドイツも異常気象なのではと心配する。
朝から久々に放送響のリハーサル。次週定期の準備はR・シュトラウス「アルプス交響曲」の分奏だった。成程大曲だけにセクション別の緻密なリハは有用だ。本番の仕上がりが楽しみな公演。
電話会社の諸手続きが日本のように単純は行かず、何度も足を運ぶ目に遭う。ガスに電気と、いろいろと生活をするには一筋縄では行かない。NHKの受信料みたいなものの調査も出現。厄介なドイツ語の交渉を後輩の沢野さんにお世話になる。

電車とバスを乗り継いでシュターツオパーへ。国立バレエ専属の針山愛美さんと待ち合わせをし、急遽今夜のチケットを確保する。チャイコフスキーの「オネーギン」を再び、今シーズン最後のステージを観る。本番前に出演者用のキャンティーンでお話しを聞く。更に舞台袖を通って脇からセットやスタッフ、出演者のウォーミングアップを覘く。
今宵はTatjana役のNadja Saidakova、Olga役のLana Salenko、そしてOnegin役のWieslaw Dudekが光る。しかしチャイコフスキーは素晴らしいメロディーメーカーであることと舞台のことを熟知していることがよく判る作品だった。それだけにバレエと音楽の密接な関係が不可欠だ。オーケストラも良い歌を聴かせていた。
あっという間に1週間も終盤、どうぞ皆様よい週末を。



ベルリンの朝

家の目の前の教会に先日再び入ってみた。その日はちょうど聖霊降臨祭の夜。
オルガンの音が聴こえたので意識して聞いていると、信者の人にオルガン室へ行く階段を教わる。上がってみるとそれは深いしっとりとした音色のパイプオルガン。
さほど大きくは無いが、最低音の重厚な響きは十分な倍音を含んで会堂一杯に浸透する。
神様に一番近い楽器の音を味わう。今度このオルガニストさんと仲良くしてみよう。
聖歌隊の練習を始めるところだったようだ。こんなところからも、日常と音楽が自然と密接につながっていることをうらやましくも思える。

日の出4時47分の今朝も、毎朝7時にその教会の鐘の音が響く。
我がフラットは中庭に面していてしかも、2重窓のためか、やわらかく響く。気が付かぬまま寝入っていることもしばしばだ。
丁度運良く窓を開けると、やわらかい陽の光と朝の香りが風に乗って舞い込む。

音楽評論家・黒田恭一さんの訃報が入る。
10数年前、山形出身のソプラノの後輩のリサイタルの伴奏を仰せつかった際、黒田さんがステージの進行、解説をして下さったのを思い出す。
穏やかな物腰で、我々若い音楽家に暖かい眼差しで接して下さった。
以来ラヂオから流れるその声で「あっ、黒田さん」と親しみをもって自然と耳を傾ける。人柄を現すものだ。
ご冥福をお祈りします。

小粒ながら立派な赤カブの束が目に飛び込む。透かさずゲット。そのまま塩をして、酢と砂糖で美味しい甘酢漬けの出来上がり。晩酌の箸休めに持って来いだ。
白アスパラガスの次は、旬のきのこかな。ちょっと楽しみ。


ブログ4年目突入

このココログとか言うこのwebサービスに出会ってから丸3年が過ぎました。
それまでのweb日記を加えると2003年の元日からですから6年余りになりますが、
こうして、日々の記録を残して来れたのも、多くの方の支えがあってのことと、
有り難い気持ちで一杯です。

日本での活動から、昨秋より欧州に足を運び、居心地の良い、そして刺激的なこのベルリンに辿り着きました。
指揮者には当然譜面と対話する時間が沢山いるのですが、いろいろなことを考え、そしてそこから自分らしい音楽を生み出し、創り出すためのエネルギーは、日々の生活から湧き出るものだろうと思っています。

ちと遠いのですが、これから、東京とここベルリンを活動拠点にあちこち見て回りながら、音楽の小径をもがき歩んでいこうと思っています。

今夏、一度日本に戻ります。行き来を繰り返しながら、一つ一つの演奏会を大切に創っていきたいと願っています。

今後ともご声援のほどをお願いいたします。

          01.06.2009                                              船橋洋介


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貼り付けておこうかと思います。よくシステムが判っていないのですが、宜しければ、
お立ち寄りの際に、ぷちっとクリックをお残し下さい。

ベルリン水無月

いよいよ暦の上で夏を迎えた。
昨秋からの海外生活で日本の四季を味わうことは出来なかったが、霧のロンドンや、17時間にせまる日の出から日の入りまでの長さ、これは体験してみる価値はある。
日本は梅雨の季節、ここベルリンはこの数日夕方集中豪雨や、雷に見舞われる。
それでも、洋服の乾きが速いのは非常にありがたいものだ。

さて先日の日曜はベルリンフィルを聴きに、市内東部にあるアレーナに向かった。昔の工場跡を改造したような広大な建物はロックやポップスのイベントに良さそうな大人数を収容出来る会場。
マイクで音を拾って聴かせるものだったが、サイモン・ラトルとベルリンフィルによるブリテンの「青少年のための管弦楽入門」は男性と女の子が楽器やオーケストラの仕組みを楽しく紹介しながら、また奏者の表情も大スクリーンに映し出されるもの。
Tanz-Projektと称した後半は、バルトークの「オーケストラのための協奏曲」。そこでは市民100名くらいの創作ダンスと言おうか、身体表現とバルトークの音楽を結びつけて見せる。音質に拘りが欲しかったが8ユーロで家族連れで楽しめる公演としてはまずまずだ。
休憩なしの90分。終演と共に稲妻が走り雨も降り出したが、遠くの空は日没を惜しむように美しい夕焼けを映し出す。

実はその帰り道でのこと。

ヨーロッパではいたる所でストリートパフォーマンスが日常的に行われているが、ベルリンでは朝の通勤電車内で押し売り的に奏でちゃう、けど一箇所どうしても装飾音が回らないフルートや、2人組みでサックスと手持ちキーボードの仲良しセッション、ロンドンではいい声で「あそこのトイレは汚い~♪」とか爆笑を誘うような輩も出没する。中にはDomonさんのようにバスキング・ライセンスを取得して地下鉄でクオリティの高い演奏を聴かせる人も大勢いる。何れにしてもそれは収入のためでもあるわけで本気なものは結構多い。フィルハーモニーには必ず終演後にギターや、アコーディオンの上手な連中が、演奏会の余韻の邪魔をしている。

そして今回、雨が強くならないうちにと足早に出た所で、古い年季の入ったアコーディオンが「Nessun Dorma(誰も寝てはならぬ)」を奏でているのを小耳に挟んだとたん、全てその日の公演の中身は即座に意識から遠ざかり、夕陽に向かって闊歩しながら「ヴィヌちぇ~」と出ないハイhを必死に絞り出してみる自分がいた。ベルリンフィル~と後で記憶を辿るも今宵は完全にアコーディオンのおっちゃんの勝利!どこかでまた会えたら帽子にコインを入れよう。
音楽って凄いな。

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